Wi-Fiパケットセンサーを活用して受動喫煙者を測定。 “望まない受動喫煙者”を減らすことを目指した取り組み!
大阪医科薬科大学
大阪医科薬科大学
https://www.ompu.ac.jp/index.html
プロジェクトの概要
大阪医科薬科大学 看護学部公衆衛生看護学分野の助教である堀池諒氏が進めているのが「Wi-Fiパケットセンサーによる受動喫煙範囲内人数の測定実験」です。ご自身の体験をきっかけに“望まない受動喫煙者”を減らすための取り組みを行っています。
今回は、本プロジェクトの実施者であり大阪医科薬科大学 看護学部公衆衛生看護学分野 助教である堀池諒氏にお話を伺いました。
受動喫煙者数を明らかにするエビデンスを作る
ーープロジェクトがスタートした経緯について教えてください。
堀池氏 医療関係者である保健師なので、タバコが身体に悪いことは常日頃からよく感じています。そんな中、自分の子どもが生まれて、外出先の屋外でタバコの煙に遭遇した際、子どもにはその煙を吸わせたくないと思ったことが、ひとつのきっかけでした。
加えてアカデミックな側面で捉えた場合、喫煙者一人で無風の環境であれば半径約7m、風がある環境だと約25mという感じで、タバコの煙がどこまで届くのかという研究は多くあります。しかし、その煙を何人が受動喫煙しているのかという計測はされていません。公共の喫煙所の管理者は自治体なのですが、職員の方もタバコの煙が身体に悪影響を及ぼすことはわかっているけど、なかなか撤去や移動ができないのは、受動喫煙者数を証明するエビデンスが不足しているからだと思い、このような形で計測することを考えました。
ただ、目視でのカウントは困難ですし、手間も掛かります。手間のかかる方法では計測の流れは普及しないと悩んでいた時に、Wi-Fiパケットセンサーで人混みを計測していることを知り「これだ!」と思いました。実証実験の準備を始めたのが、2023年の1月です。ちょうど、そのタイミングで日本禁煙学会の研究助成金のアイデア募集があり応募したところ、幸運にも採択されたので本格的なスタートに至っています。
ーー実際にはどのような形で計測を行うのでしょうか?
堀池氏 今回は大阪南港ATCの海のステージ北側にある屋外開放型喫煙所に、共同研究として株式会社社会システム総合研究所様にWi-Fiパケットセンサーを取り付けていただきました。Wi-Fiパケットセンサーは、スマートフォンのWi-Fi機能が“アクティブ”または“スタンバイ”状態であれば、信号を受信します。センサーが受信した信号から人数を推定することが実験の核となります。しかしWi-Fiの有効エリアは数百m程度であり、広範囲で人数を計測してしまいます。そこでセンサーとの距離が近い場合ほど、強い信号を発信する特性を踏まえて、受動喫煙の範囲となる25mまでの距離に居た人の信号強度を割り出すことにしました。
具体的な方法としては次の通りです。Wi-Fiパケットセンサーの計測と並行して、喫煙者および喫煙所を中心とした半径25m以内に入った人数を目視にてカウント。その人数をWi-Fiパケットセンサーの信号数と照らし合わせて、喫煙所に居て最も強い信号を発している喫煙者の人数分を差し引きます。その上で目視の人数と信号強度の関係から受動喫煙人数を推定します。その後はWi-Fiパケットセンサーで継続的にデータを取得していきました。
商業施設での初実証実験に手応えを感じる
ーー施設での初めての実証実験ということですが、どのような成果でしたか?
堀池氏 ATCでは、2023年9月28日(木)から10月29日(日)までの1ヶ月間、測定させていただきました。手応えとしては、まず今回Wi-Fiパケットセンサーを取り付けた場所が、非常に良い設置環境だったと感じています。喫煙所北側は建物の壁に接しているため、周囲を通行する人は喫煙所の南側のみを通過するためです。Wi-Fiの電波はガラスを通りますが、コンクリートの壁などでは遮断されますので、喫煙所の背後となる建物内を行き来する受動喫煙対象外の人たちを自動的に除外してくれました。また、1日や1週間を通してバランスよく、人の往来がある場所ですので、安定したデータが、数多く測定できたのも良かった点です。
これから目視計測した情報などを踏まえてデータ解析を行い、受動喫煙者数を割り出していく作業を進めていきます。
ーーデータ解析もご自身で行うのですか?
堀池氏 元々、保健師という職業柄と大学院で博士号を取得していますので、研究活動におけるデータ解析などは得意です。しかし疫学や統計の知識はありますが、今回は信号の解析ということで、苦労もありました。その部分においては、Wi-Fi機器と測定技術をご提供いただいた株式会社社会システム総合研究所様からもサポートをいただいています。Wi-Fiで受動喫煙者を計測することは、おそらく日本で初めてということもあり、そちらの会社も「面白そうなのでやってみましょう!」と共同研究の形で進めさせてもらっています。
ーーまだ実験段階のプロジェクトということですが、課題に感じていることは?
堀池氏 Wi-Fiパケットセンサーにおけるデータの網羅性については、課題を感じています。そもそもスマートフォンなどのWi-Fi機器を持っていない人や小さな子どもはカウントされませんし、逆に2~3台所有している人の場合は誤差が生まれてしまいます。それらの課題を解消する方法として別のセンサーでの測定も視野に入れています。なかでも注目しているのがLiDARです。このセンサーであればプライバシーにも配慮したかたちで人物を検知することができますし、取得データのサイズや形から子どもや大人などのある程度の年齢層も推測可能なので、より興味深い計測結果が得られるのではと思っています。
日本発の取り組みとして世界の課題解決も目指して
ーー本プロジェクトにおいて、大阪・関西万博へ思うことはありますか?
堀池氏 先程、Wi-Fiパケットセンサーで受動喫煙者数を計測するのは、おそらく日本で初めてと話しましたが、たぶん世界でも例は無いかと思います。ただ世界各国でも同じように受動喫煙の問題はありますし、むしろ日本よりも喫緊の課題となっている国もあるかもしれません。そのような国々においても、技術的には問題なく活用していただける仕組みですし、必要最低限の電源が確保できれば利用できる物なので国を問わず設置できると考えています。そうした海外の国にもアピールしていきたいですね。また、今回の大阪・関西万博においても、何かしらの形でデータ測定を行って、『受動喫煙の無いクリーンな博覧会』として打ち出すお手伝いができれば良いと思っています。
ーー今後の展開や目標について、教えてください。
堀池氏 最終的に目指すところは、Wi-Fiパケットセンサーを取り付けるだけで自動的に受動喫煙者数を測定できるシステムを作ることです。そして、それを日本全国に普及させて、次世代の子どもたちを含めた“望まない受動喫煙を減らしていきたい”と考えています。
私としては、喫煙者の方には健康のために禁煙をお勧めしますが、タバコを吸うか吸わないかは個人の判断なので責めるつもりはまったくありません。その一方で、望まない受動喫煙は防止する必要がありますので、受動喫煙のない社会を作っていきたいですね。なので、喫煙所を一律で排除するということでもなく、個別で設置場所などをエビデンスに基づき精査する仕組みとして、活用してもらうサービスになることを目指しています。