5Gを使ったDXで、社会課題の解決を目指す
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社
東京都港区海岸1-7-1
https://www.softbank.jp/biz/
プロジェクトの概要
ソフトバンク株式会社 法人部門は、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)による企業課題や社会課題の解決を目指し、5G(第5世代移動通信システム、以下5G)テクノロジーを使った新しいソリューションの企画・開発・サービス化に取り組んでいます。
ソフトバンクが、大阪市、公益財団法人大阪産業局、一般社団法人i-RooBO Network Forumと共同で運営する、5Gを活用する製品・サービスの開発支援施設「5G X LAB OSAKA(ファイブジー・クロス・ラボ・オオサカ)」を起点に、様々な企業・団体とパートナーシップを取りながら、各業界の課題・ニーズに合ったソリューション開発を行っています。
5G X LAB OSAKA
https://teqs.jp/5gxlab
DXの先にあるものは「新たな労働力」
今回は、ソフトバンク株式会社 法人5G推進室の日野氏にお話を伺いました。
ーーこのプロジェクトの背景・内容について教えてください。
日野氏 当社法人部門全体のミッションとして、DXで企業課題や社会課題の解決を目指しています。そのため当部署では、企業様の課題やニーズに応じて様々な価値を提供するため、5Gを使った新しいソリューションの企画・開発・サービス化に取り組んでいます。
その先にあるのは、「新しい労働力を生み出す」ことにあります。
現在日本では、人口減少や高齢化により、労働人口の低下が社会課題となっています。それを、ロボットやAIなどの先端技術と5Gを繋ぎ合わせることで、日本全体の労働力底上げに貢献できるのではないかと考えています。そのため、従来は人にしかできないと思われていた作業を機械がする、遠隔で作業を支援する、データ蓄積や解析による確度の高いフィードバックを行うなど、新たなサービスの創出に取り組んでいます。
ただ、私たち1社だけの力では、市場が求める課題やニーズにマッチしたサービスは生み出せないのが現状です。加えて、それが効果的なものかどうかの検証が非常に難しい。そこで、2018年から「5G×IoT Studio」という場を設け、企業様との共創活動に取り組んできました。これは、パートナープログラムのようなもので、当社の実現したいことに賛同いただいた企業様と一緒に、新しいソリューションを企画・開発していくといった活動になっています。
この活動を進めていく中で、大阪市や公益財団法人大阪産業局からの紹介で、IoTなどテクノロジー・ビジネスの支援を行っている「ソフト産業プラザTEQS」という場所に出会い、当社ビジネスと非常に親和性が高くシナジー効果が期待できるという点から、2020年10月、ここATCに「5G X LAB OSAKA」を開設しました。
5Gはひとつの要素。
デバイスやAIと組み合わせることで、新しいソリューションが生まれる。
ーー具体的に、プロジェクトはどの段階にあるのでしょうか?
日野氏 現在「5G X LAB OSAKA」を起点に、サービス開発に向けた実証実験を重ねている段階です。様々な業界に対して、非常に多くの実証事例が出てきています。具体的な業界でいうと、ヘルスケア、製造業、小売り・物販などですね。
ヘルスケアでは、2021年夏に、大阪と東京を5G通信で繋いで、歯科領域の遠隔手術支援の実証実験を行いました。
現在、若手歯科医師の臨床現場における診断・治療技術の習得は、所属するクリニックの指導に依存しているという課題があり、その理由はインプラント等の口腔手術は、上級医との対面指導が中心になっていることにあります。仮に組織でクリニックが複数あったとしても上級医がひとりしかいなければ移動や距離がハードルになります。また、口腔手術の患者自体の数がそれほど多くない上に、症例をこなさないとキャリアアップできないという構造にも原因があります。
こうした課題に対して、地域に依存しない遠隔地からの指導や支援ニーズがあり、今回の実施に至りました。
具体的には、5GとXR技術※などを用いて、東京にいる指導医が大阪にいる若手歯科医師にVR空間で顎骨の3Dモデルなどを共有しながら、診断・治療・指導を実施しました。その後、実際のクリニック患者に対して、大阪の歯科医師が東京の指導医とARゴーグルで術野を共有し、手術支援と指導を受けながらインプラント治療を行いました。同手術は知識的にも技術的にも比較的難易度の高い処置とされていて、5Gを用いた遠隔手術支援を行うことで、若手歯科医師に対する知識や技術の伝授が物理的な場所の制約を受けずに行えるかどうかを実証しました。
※XR技術
VRやAR、MRなどの技術で構成される、「仮想世界と現実世界を融合し、新たな体験をつくり出す」技術の総称。
ーーどのような反応・声があったのでしょうか?
日野氏 実際のクリニックにて行った遠隔手術支援においては、若手歯科医も、患者様も、当初は5G通信への遅延等による不安を抱かれていたようですが、実際に治療がスタートしてみるとそのような懸念はなくなったと聞いています。
手術を行う前に、実際に治療を受ける患者のデータから作製した3Dモデルを使って、手術のシミュレーション・疑似体験を行ったのですが、平面の画像だけの説明よりも深い理解を得ながら、実際の手術と同じような環境下で実践の場に臨めたのが良かったと聞いています。また、上級医と同じ視点で手術シミュレーションを行うことで、「ここは危ない血管がある。」などの注意点を確認できた事も、ポジティブな意見に繋がったようです。
ご協力いただいたクリニックでは、複数の院を展開しているのに対して、難易度の高い症例の手術は上級医の院長が一人でこなしているような状況です。ですので、手術の度に院長が移動対応しており時間や費用がかかる上に、若手医師が育ちにくいという教育課題もあるそうです。こうしたことも、手術データの蓄積によって症例をこなさずともシミュレーションを重ねることができるので、教育の機会に繋げることができます。
最終的にそれらのデータを活用して、ロボットが自動で手術を行うような未来も見えてきますね。まだまだ先ではありますが、確実にその一歩を踏み出せたのではないかと思います。
一方で、今後の検討事項も見えてきました。
今回の手術は比較的短時間で終わる症例だったのですが、これが長時間に渡った場合、デバイスのバッテリーは維持できるのか、ARゴーグルをつけながらの長時間手術は重さや熱さが作業に影響してしまうのではないか、といった声が上がってきました。5G単体で見ると単純なネットワークでしかないのですが、デバイスやAIのサービスと組み合わせることで、色々な課題発見に繋がると改めて感じました。
結果としては、ひとつひとつ課題を潰していけば、導入ベースに充分のるという反応がありましたので、今後、検証を重ねてソリューションを更にアップデートしていきたいと考えています。
工場のあらゆるデータを見える化し、製造業をアップデートする
ーーその他、どのような業界を検討しているのでしょうか。
日野氏 製造業向けのサービス開発を検討しています。
製造業は日本の産業構造のメインであるにも関わらず、昨今労働力不足が深刻となっており、生産性向上や業務効率化などを目的とした製造現場のDXが求められています。ここにテクノロジーを使ったソリューションを提供できれば、新たな労働力を生み出せるのではないかと考えています。
そこで、生産ラインの自動化支援を行う「IATC」と、スマートファクトリーの開発拠点である「IATC-Lab.」をリソースに持つ一般社団法人i-RooBO Network Forum様とパートナーシップを結びました。「IATC」や「IATC-Lab.」に携わるエンジニアの方々は、生産現場の課題やニーズを熟知されているので、サービス開発において非常に意義のある共創になります。そして、この場所に5GやIoTを活用した設備データの収集・連携の実証環境を構築しました。
実際に稼働中の生産設備を使ってシステム検証や導入効果検証を行うことは、生産ラインへの影響があるため難しいといった課題がありましたが、この実証環境を活用することでそうした懸念なく、いつでも自由にデモ体験をしていただくことができます。また、既存の生産設備を模した環境が整っていますので、システム導入後のイメージもしていただきやすいのが特長です。
ターゲットの親和性が高い「5G X LAB OSAKA」とも場所が近いため、相乗効果も期待しています。
今後は、この場所で製造業の様々なユースケースに対応した実証実験環境を整備し、サービス開発・検証を行っていきたいと考えています。
ーー具体的に、どのような実証実験をされたのでしょうか?
日野氏 生産現場の課題はいくつもありますが、まずは、工場の様々なデータを見える化するソリューションに着目しました。
昨今、多くの中小企業の製造現場では、既存の設備がネットワークに接続されておらず、デジタル化によるデータの自動収集や可視化を進めたくてもデータの出力が困難な構造になっていたり、人が生産設備や制御装置(PLC)などを24時間365日体制で監視し、手作業でデータの記録や収集を行っているのが現状です。
それらを踏まえて、生産設備や協働ロボットを5Gと閉域網でクラウドに接続し、データの蓄積・可視化などを検証可能にする環境を構築しました。
この環境では、5秒間に1回の頻度で、制御装置から生産数、サイクル時間、気温、温度、稼働状況、金型温度、振動センサ等のデータを、アナログ信号からデジタル信号に変換しながらクラウドに蓄積していきます。これにより、データの可視化や蓄積による分析が可能になります。
従来の管理方法ですと納品後に製品不備が生じた際は、紙ベースの記録用紙を一枚一枚人がチェックするため原因追求に時間がかかります。しかしこのソリューションを利用することで、蓄積したデータから原因を追跡できるので、スピード対応と業務平準化につながります。
また、ほぼリアルタイムで制御装置の情報がモニター画面に掲示されるので、仮に生産過程で金型温度が下がる等の変化が起こった場合、その時点で気づくことができ、品質保持にも繋がります。加えてこうした情報を、作業員はハンズフリーを維持したままAR(拡張現実)によって重要な現場情報を見ながらリモート作業員とコミュニケーションができます。これまでは機械トラブルが生じた際に、熟練スタッフや保守関連の業者が直接現場に行かなければ対処出来なかった作業を、遠隔から現場オペレーターに指示を出し解決することが可能になります。さらに本部や営業マンが遠隔からリアルタイムに稼働状況を確認することもできるため、働き方向上にも貢献できると期待しています。
実際に見学に来られた企業様からは、たくさんの質問やポジティブなお声をいただいています。そのひとつひとつに関心の高さが伺えます。
また、鉄道業界でも同じような課題があるので詳しく話を聞きたいといったお声もあり、サービスがカタチになれば別業界への展開の可能性も充分にあると感じています。
※AR(拡張現実)
ARは、スマートフォンやARゴーグルを通して見ると、現実世界に3Dデータやナビゲーションなどのデジタルコンテンツが出現し、現実世界の情報を付加してくれる技術
ーーその他、どのような業界での実証実験をされたのでしょうか。
日野氏 業界が一様に括れないソリューションもあります。
2021年12月に行った「5G活用による広告配信機能を搭載した自動運搬ロボットの機能検証」では、無人の移動ロボットに4Kモニターを設置し、5Gを使ってインターネット経由でATC内店舗の広告を配信しました。加えてデジタルサイネージ検証サービスを使って、視聴数や属性把握などを行い、そうしたデータと広告提供店舗(ATC内テナント)への送客数を組合せることで広告効果を測定しました。
従来のモビリティ関連ロボットは、人や物を運ぶという点のみで機能しているのが大半ですが、人や物に加えて「情報」を運ぶという側面からアプローチし、一般のお客様や施設、店舗にどのような効果があるのかを検証することで、新たなビジネスモデルに繋がるのではないかと期待しています。例えば、移動ロボットが施設内を掃除や警備をするといった自律的作業を行う一方で、お客様に声を掛けられれば道案内をしたり、迷子センターに繋いだりなど、1台のロボットで複数の業務を遂行するといった未来もあるかもしれません。
実証を重ね、万博後は当たり前に使われているサービスへ
ーーさいごにメッセージをお願いします。
日野氏 「5G X LAB OSAKA」オープン以来、様々な企業様・団体様と共創をさせていただき、すごいスピード感を持って事業展開ができているなと感じています。
現在の当社5G技術は、大容量のみの提供となっているのですが、2022年度以降は、低遅延、多接続の提供も可能になってきます。ですので、今後さらなるビジネスの可能性が広がっていくと期待しています。
2025年にはATCに近接する場所で万博も開催されます。万博で使われた技術やサービスインされたものが、今後の世の中を作っていく可能性が非常に高いので、ここATCという場所で実証を重ね、トライアンドエラーを繰り返しながら、実用化に向けて活動していきたいと思います。
私たちが実用化したサービスが万博後に当たり前に使われる世の中になっている、そんな未来に向けてこれからもプロジェクトを進めていきます。もし共創の機会がありましたら、ぜひお声がけいただければ嬉しいです。
本日はありがとうございました。
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