現場作業員の働き方を変える「遠隔施工のトータルソリューション」
ORAM 株式会社
ORAM 株式会社
プロジェクト概要
高齢化・労働人口減少・熟練作業員の退職などにより、建設現場の現業作業人員不足が社会課題となっており、労働環境の改善、労働力確保が急務となっています。加えて、近年では5G通信の発展やリモートワークの定着が進んでいます。
これを受け「遠隔操縦技術」を活用し、作業員の就労時間の有効活用、既存設備を継続的・効率的に稼働させるシステムを開発。「遠隔施工トータルソリューション」として、現場オーダーに従い、提供する事業を展開しています。
移動・待機時間を有効活用すれば、業界を変えるソリューションに
今回は、ORAM株式会社の代表取締役 野村光寛 氏にお話を伺いました。(オンライン取材)
ーープロジェクトが始まった経緯について教えてください。
野村氏 まず背景として、建設現場の働き手不足が社会問題になっています。
理由は、キツい、汚い、危険の3Kといったことはもちろんですが、その他にもあります。現場には「待ち時間も仕事の内」という言葉があるのですが、実は作業員には待機時間や移動時間も多く、就労時間の使い方が非効率な一面もあります。
例えば、ショベルカーで土を掘り出し、それをダンプトラックに入れ、満タンになったら別場所に土を運ぶという作業フローがあったとします。そうすると、ショベルカーを操縦していた作業員は、ダンプトラックが土を運んでいる間、ダンプが再び帰って来るのを待ち作業を停めないといけない。ベテランの作業員であれば、その待ち時間に段取りを考慮した次の作業ができるかもしれませんが、それでも人間なので、常にパフォーマンスを上げ続けるというのは難しいです。加えて、工事現場は山間部にあることも多いので、移動時間がかかります。現場にたどり着くのに車で2〜3時間かかるなんてことは、日常的に発生しています。
また、5G通信技術への期待感、リモートワークの定着による通勤への価値見直し、退職者の再雇用・働けない方の雇用促進など、労働に対する多様性が求められている社会背景もあります。
このようなことを踏まえ、建設・製造業向けに「遠隔操縦技術」を活用し、既存設備の操縦操作を作業員が現地に赴く事なく、 また一人の作業員が複数の設備を遠隔操縦することで、既存設備を継続的・効率的に稼働させるシステムの開発に乗り出しました。現場で今すぐ成果がでることにこだわった「遠隔施工トータルソリューション」をお客様の現場オーダーに従い、提供する事業となっています。
導入のハードルを下げ、業界全体にアプローチする
ーー「遠隔施工トータルソリューション」について、詳しく教えてください。
野村氏 「装置」「通信」「操縦席」の大きく3つに分かれています。
一つ目は、メーカ・機種不問の既存建機レトロフィット遠隔操縦装置「ORAM-One」です。これは、既存建機の操作レバーに軽量小型のロボットを取り付けるだけで、遠隔操縦が可能になる技術です。メーカの遠隔操縦システムは、原則そのメーカの建機にしか対応していないのですが、弊社はサードパーティですので、多種多様な建機に取り付けることを前提としています。また、取り外しも簡易ですので、遠隔操縦と搭乗操縦の切り替えも簡便にでき、より生産性・品質の向上が見込めます。加えて、メンテナンス性が高いのも特長です。(※特許出願中)
二つ目は、途切れない通信、移動体への搭載、低遅延通信が特長の「Kinetic Mesh Wifi」です。これにより、広域な現場で複数台での遠隔操縦が実現できます。(※正規Distributor ティー・エル・エス社との業務提携)
三つ目は、単一の操縦席で多種・複数台の建機を操縦可能にする「Switching Cab」です。これにより、例えば、ショベルカーを動かしていた作業員が、作業が終わったら画面をパチっと切り替えて、次は隣の現場のロードローラーを動かすということが可能になり、作業員の就労時間を有効活用して作業の効率化が図れます。また、安全かつ迅速に複数建機の遠隔切り替えを実現できるよう、切替シーケンスを採用しています。
そして、これらを現場で機能させるためには、作業員の育成が重要になってくると考え、専用キットを開発しました。これは14分の1の建機模型にカメラを設置し、Switching Cabで操縦を行いながら、ゲーム感覚で遠隔操縦技術を習得できるというものです。模型がひっくり返ろうが、壁にぶつかろうが、対物事故発生しませんし、人身事故にもつながりません。これで目一杯練習いただいて建機模型を動かせるようになった後、現場で実機を使ったトレーニングに入ります。そこで、1~2日実機を動かして感覚を合わせてもらい就労についてもらう、という流れで導入いただいています。皆さん、大体の方が2~3日程度で実機を動かせるようになっています。
実証実験では、建機に触ったことがない人のほうがベテランの作業員よりも習得が早いといった結果も出ており、新規雇用の流入にも貢献できるのではないかと期待しています。さらに、操縦テストを受けられた方々が目を輝かせ、まるで自分がF1レーサーや、ロボットのオペレータにでもなったかのようなモチベーション感覚で建機を動かされていました。このように働きがいも提供していけるのではないかと考えています。
ーー遠隔とリアルの操作の感覚に、違いはないのでしょうか?
野村氏 遠隔の操縦ですと、画面から奥行きや傾斜を判断することは難しいです。そこで画面にグリッドラインを表示し、坂がどこから始まっているのか、どの程度の傾斜なのか等の補足情報が、画面から得られる工夫を取り入れています。
最新技術を用いて問題を解決する場合、それら課題解決のために5Gで4K や8Kの高解像度を採用しましょうといった話になるのですが、弊社は「現場ですぐに導入できる・誰もが使いこなせる」をコンセプトに、現市場で流通する技術を用いることを前提としたソリューション開発に力を入れていますので、前述のような解決方法になります。
遠隔操縦を近未来的な技術として捉えるのではなく、現状ある技術ですぐに現場に導入できて生産性・品質、オペレーターの働き方改革に貢献できるということを広く普及させていきたいです。そのためには、様々な導入のハードルをできるだけ下げ、業界全体にアプローチすることが重要だと考えています。
ーー導入事例を教えてください。
野村氏 大きく2種類あります。
ひとつは、災害現場です。人が入れない、危険な環境下での作業に遠隔操縦技術を活用したいというニーズがあります。
事例としては、大雨災害により天然ダムが発生し、山の土をまるごと撤去するような作業があります。作業場は、いつ地滑りを起こしてもおかしくない状況なので、建機に人が搭乗して作業をするには非常に危険です。そこで、遠隔操縦技術を活用して、安全地帯から人が建機を動かして土を撤去するという方法が採用されました。
大林組と大裕の共同開発システム「サロゲート」
※野村氏は前職大裕在任中に本システム開発の立上げ時からの責任者として開発に携わった経緯が、その後ORAM株式会社での遠隔操縦装置「ORAM-One」の開発の前身となっています。
もうひとつは、企業プロモーションの活用です。
企業が業界の技術発展に貢献するために取り入れたり、競合との差別化を図るための手段として用いられることが多いです。
今後は、ORAMのソリューションなら、現在流通している安定した技術を用いて遠隔操縦技術を現場で使える様になるということを広く浸透させていきたいですね。そのための取り組みも実施したいと考えています。
「車椅子に乗った作業員が万博会場を作る。」そんな未来を実現したい
ーー今後、取り組みたいことは何でしょうか?
野村氏 事業フェーズとして、課題解決のためのシステム開発は、ある程度完成に近づいたと考えています。今後に関しては、走りながら現場ニーズに合わせてブラッシュアップをしていきます。
一方で、どれだけ良いシステムを作っても、普及が進まないと世の中が良くなりません。弊社が実現したい建設現場の作業員の環境を改善し、新規雇用を生み出すためには、遠隔操作技術を業界に広く採用してもらうというのが、ひとつのゴールになります。
そこで、大阪・関西万博を契機として捉え、ATC内にある先端技術を活用したビジネスのサポート拠点「TEQS」に2021年12月に入居しました。この場所で実証実験を繰り返しながら、様々な技術を持つ企業と連携し、万博に向けサービス価値をさらに高めていきたいと考えています。
例えば、スーツを着たサラリーマンが電車でATCに出勤し、ATCから遠隔操縦技術を使って万博会場を建設する、といった未来があるかもしれません。また、身体的な支障により外出困難な方や昔建機を操縦されていた高齢の方などが、建設に携わることもできます。万博会場への道数には限りがありますので、遠隔操縦技術を上手く活用して、交通渋滞を避けながら「万博建設=新たな価値創出」が実現できれば面白いですよね。
事務職ではリモートワークが普及定着化してきましたが、これからは現業におけるリモートワークを定着化させることで、より多くの家庭と職場の環境に新しい価値観・時間や社会の在り方を提案していきたいと考えています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
大阪南港にORAMという面白い小さな技術者集団があります。あらゆる現場作業で発生する人手不足の問題(ヒトがおらん問題)に対して、メカトロ・センシング・遠隔/自動化技術を用いたORAM独自のソリューションを提供することで、お客様の問題を現場の人手を増員することなく(ヒトがおらん状態で)解決する。これが私たちの目指すところです。
遠隔操縦というと難しく聞こえるかもしれませんが、その技術は今ある技術の組合せとアイデア、それを実現したいと思う技術者が集まれば既環境下でも実現できるところまで来ています。
ご興味のある企業様・団体様、ご連絡お待ちしています!
本日はありがとうございました。