100PROJECT

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障がいのある方へ優しさを提供する、あんしんルーム

株式会社Lean on Me

株式会社Lean on Me

大阪市高槻市高槻町11-7-217
072-648-4438
https://leanonme.co.jp/

プロジェクトの概要

今回は、大阪・関西万博の場外展示として ATCエイジレスセンターにて、2025/8/21~9/5に実施した『リボーンチャレンジ・ショーケース』へご参加いただいた株式会社Lean on Meの代表取締役の志村駿介氏と、万博で共創展示した“障がいのある方にやさしいBOX型センサリールーム”を手掛けたパナソニック株式会社エレクトリックワークス社センサリールームプロジェクトのプロジェクトリーダーである三浦美賀子氏にお話をお聞きしています。

障がい者福祉における社会課題解決サービスを提供

ーーはじめに「株式会社Lean on Me」がどのような会社なのか、ご説明ください。

志村氏 私たち株式会社Lean on Meは、障がい福祉サービス事業所で働いているスタッフさん向けのオンライン研修サービス「Special Learning(スペシャルラーニング) 」を提供しています。
福祉には高齢者・保育・障がい者の3つのセグメントがあるのですが、高齢者や保育には専門の国家資格が存在するのに対して、障がい者福祉においてはそれに準ずる国家資格がありません。
その結果、障がい者福祉の現場ではスタッフや従業員の方の知識不足や経験不足によって、利用者に対して誤った対応を行ってしまうという社会課題が挙げられています。

そうした課題解決のために私たちが提供しているのが、障がい福祉サービス事業所向けのオンライン研修サービス「Special Learning(スペシャルラーニング) 」です。
これは、主に知的障がいのある方や自閉症スペクトラム障がいのある方に対して、どのように接すれば良いのかを体系的に学べる動画教材で、
1本あたり3分程度の短尺動画が約2,000本あり、サブスプリクション方式にて、いつでも何度でも視聴可能となっています。

当社は2014年に私が設立しました。私にダウン症で知的障がいのある弟がいることが、この会社を始めたきっかけです。
母は障がい者福祉施設を経営者でありながら、私たちを育ててくれました。
私自身も施設の現場で手伝うことがありまして、弟と同じダウン症の人たちとの接し方はなんとなくイメージできるものの、自閉症スペクトラム障がいやADHDなどの人たちとの接し方に非常に困ったという原体験があります。
そうした人たちとの接し方を学ぼうにも、適したものが見つからなかったので、「それなら自分で作ろう!」と思い、起業しました。

そんなきっかけで生まれたオンライン研修サービスの「Special Learning」ですが、当初は参考になる資料が無かったので、最初は私がアメリカ・オレゴン州の障がい福祉サービス事業所へ単身で乗り込みアメリカの行政主導の研修カリキュラムを学びました。
そこで学んだことを日本向けにアレンジして、日本の障がい者福祉の専門家の皆さんに意見をいただきながら、動画コンテンツを作成していきました。その時にご指導いただいた専門家の皆さんとは、現在も懇意にしていただいており、100人以上の方々に講師としてご出演いただいています。
こうした有識者の先生方の専門性や質の高さは、他社には真似できない部分だと考えています。

パナソニック株式会社エレクトリックワークス社 センサリールーム プロジェクトリーダー 三浦美賀子 氏(左)
株式会社Lean on Me 代表取締役CEO 志村駿介 氏(右)

ーー大阪・関西万博でも展示した“障がいのある方にやさしいBOX型センサリールーム”は、どのような経緯で生まれたのですか?

志村氏 まずきっかけは、私が現場で外出支援ヘルパーをしていたときの経験からです。
自閉症スペクトラム障がいのある方の移動支援として電車等に乗ることがあるのですが、彼らは人混みに入るとしんどくなったり、パニックを起こしたりすることがあります。
そんな時は駅の個室トイレに駆け込んで気持ちを落ち着かせることを日常的に行っていました。彼らにすると、どこにでもあるトイレマークは安心できる場所なんです。

しかしながら、長い時間トイレにこもるのは不衛生ですし、何より使いたい人が困ってしまいます。
ヘルパーの立場としても、トイレの前で落ち着くまで待ち続けるのも、あまり気持ちの良いものではなく、いろいろな人にとってストレスだと感じていました。

そんな課題を感じていたところ、2021年に先輩経営者の方からパナソニックさんが、このセンサリールームをショールームで体験できる活動をされていることを教えてもらいました。

三浦氏 もともと私たちの部門では、照明を基軸とした空間設計を行い、心を豊かにする灯りの研究をしていました。
そんな中で、ヨーロッパを中心に広がりを見せていたセンサリールームに注目し、子供の感覚発達や育児に疲れた親御さんを癒やす灯りについて研究する目的で、グランフロント大阪のショールームで実証実験を行っていたんです。
その時はちょうどコロナ禍だったこともあり、保育施設などが閉園している中で、居場所を失っていた親子さんたちが訪れ、安心して過ごしていただける空間としてご活用いただきました。

そのショールームも2022年には閉館することになり、多くの利用者から『続けてほしい』という要望をいただきました。
私たちも、その声から手応えを感じると共に、照明、音楽、映像など社内の技術をさらに結集させ、事業として育てていかなければならないと感じました。

その後、私自身は大阪・関西万博の準備室へ異動となり、現在も本プロジェクトとの兼務になっているのですが、ショールームが閉館されてからも保育園や子育て支援施設などへルームの提案は続けてきました。
そんな中、センサリールームが元々ヨーロッパで障がい者向けに始まったことはわかっていて、その分野向けに展開することも視野に入れていたのですが、私たちには障がい者向けのニーズを十分に理解する知見がありませんでした。

そのタイミングで弊社のベンチャー企業を支援するアクセラレータプログラムにLean on Meさんが応募され、障がい者支援に取り組む志村さんと私たちがマッチングしたんです。必然的な出会いでしたね(笑)。
そのアクセラレータプログラムでも私たちのチームは3位入賞も獲得し、本格的に事業化に向けて進むことができました。

志村氏 また私たちの出会いが、ちょうど大阪・関西万博の準備がスタートする時期だったのも大きかったです。
Lean on Meとしても出展枠を持っていたこともあり、センサリールームを多くの人に体験してもらえる絶好の機会だと考えました。
それから2年間かけて消防法などの安全基準に対応した“万博仕様”の新しい空間を開発。
そして2025年6月3日(火)~6月9日(月)の期間、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン内のリボーンチャレンジゾーンにて、完成したセンサリールームを発表することができたという流れです。

 

ーー自閉症スペクトラム障がいのある方の場合、どのような困りごとが多いのですか?

志村氏 はい。例えば聴覚が過敏な方は少し大きな音がしただけでもビックリされますし、視覚過敏な人の場合は一般的な蛍光灯の灯りでも目が刺されるように痛いと思われる方もいらっしゃいます。
それぞれの症状に軽重のグラデーションがあるので“スペクトラム”と表現されます。

また、情報は具体的に伝えないと伝わらないことも多いです。
例えば、「この場所でリラックスしてください」と言っても伝わらず、おそらくパッと覗いて、すぐに出ていってしまうと思います。
なので、「ここで靴を脱いで、天井を見てから、深呼吸を10回してください。
流れている音楽が終わって、部屋が明るくなったら終わりですよ」というふうに、行動を視覚的に構造化して伝えてあげる必要があるんです。
そうした利用者に向けた知見やノウハウを、弊社は多く有しています。

万博での出展を契機に、各地での本格導入を目指す

ーー大阪・関西万博で展示した“障がいのある方にやさしいBOX型センサリールーム”は、どのようなものでした?

志村氏 万博で展示したBOX型センサリールームは「たたみ一畳」ほどのコンパクトな組み立て式ユニット(奥行105 cm × 長さ190 cm × 高さ210 cm)です。
室内は心地よい光と音によって五感を程よく刺激し、利用者がリラックスしたり気持ちを落ち着かせたりできる空間となっています。
消防法にも対応しており、屋内のコンセントだけで設置ができ、キャスター付きで移動も容易です。

ボタンひとつで起動できる簡単操作にもなっており、「疲れたとき」「ひとりになりたいとき」などに、自分のタイミングで安心して空間に入り込むことができ、利用者の皆さんが「自分で選ぶ」を尊重した設計となっています。

万博会場では、想定よりも遥かに多い5,700名以上の方々に体験していただくことができました。
体験者も国内外さまざまで、海外の方からは「これは欲しい!」と言っていただけて、日本人の方とはセンサリールームを通じて自閉症スペクトラム障がいに悩む方の存在を知ってもらうきっかけにもなったと思います。

ーー今後のビジネス展開について、お聞かせください。

志村氏 はい。まず万博での展示終了後の6月中旬からは愛媛県の福祉施設と特別支援学校に、この万博で展示したBOX型センサリールームの本格導入を検討する目的で実証実験利用してもらっています。
ここでも大阪・関西万博に出展した効果もあり、愛媛県のホームページや地元のテレビニュースなどにもしっかり取り上げてもらい、県民の皆さんにもご紹介していただきました。そしてまずは、この愛媛県で効果検証を行ってもらい、本格導入してもらうところまでを目標としています。
その後は、この愛媛県の導入実績をもとに、他の自治体へも導入を働きかけていきたいです。

三浦氏 センサリールームは、奈良のこども園に導入いただいています。
こちらのこども園では元々、相談室のような一室を作る予定だったところを、センサリールームにアレンジされたのですが、親御さんや園児たちとリラックスして話の出来る場所としてご活用いただいています。
一般的な相談室だと、親御さんとお話するにしても少し緊張感が出てしまうと思うんですね。
それが、このような空間であればお互いの苦労がよくわかったり、気持ちも吐露しやすかったりするのだと思います。
園児たちの中にも大きな音やノイズにストレスが溜めてしまう子がいるので、そんな子たちが安心して過ごせる場所としても活用されています。

また利用される方から センサリールームは『暑くないサウナ』 みたいと言われることがあります(笑)。
確かに、周りのノイズを無くして、ゆっくりと対話ができて、落ち着いて心が整う、ということで言えばサウナみたいなところですね。
なので、このように障がい者の有無に関わらず、多くの人々がリラックスできる場所としても利用してもらえればと考えています。

ーー“障がいのある方にやさしいBOX型センサリールーム”における、将来的な展望についてお聞かせください。

志村氏 この事業においては、『どんな場所にいっても見かけるもの』にしていきたいと思っています。
今、駅や商業施設などでトイレが必要不可欠であるのが当たり前のように、自閉症スペクトラム障がいのある方にとってはセンサリールームのような場所は必要不可欠なものだと考えています。
なので、ある程度の規模の建築物であれば、トイレと同じように備え付けるのが当たり前のインフラ設備として考えてもらえるように広げていく活動をしていきたいと思っています。
自閉症スペクトラム障がいのある方が、あるままのロゴマーク※を見つけたら「安心できる場所」として認識してもらえるような社会になれば嬉しいです。
※「あるまま」はパナソニックのセンサリールームの商標です。“あるがままの自分で居られる場所“という意味が込められています。

株式会社Lean on Me

大阪市高槻市高槻町11-7-217
072-648-4438
https://leanonme.co.jp/

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