幸福と健康が両立したまちづくりを、病院からスタート!
社会医療法人 愛仁会 千船病院

社会医療法人 愛仁会 千船病院
大阪府大阪市西淀川区福町三丁目2番39号
TEL:06-6471-9541
https://www.chibune-hsp.jp
プロジェクトの概要
今回は、大阪・関西万博の取り組みである「TEAM EXPO 2025」共創チャレンジにも登録されている社会医療法人愛仁会 千船病院 にじくじらチームの『イネーブリング・シティ西淀川区プロジェクト』についてご紹介いたします。
お話をしてくれたのは、本プロジェクトの担当者であり、千船病院の理学療法士でもある村田尚寛氏です。
イグ・ノーベル受賞教授から学んだ、まちづくり構想
ーー 本プロジェクトの主題である『イネーブリング・シティ』とは、どのようなものでしょうか?
村田氏 もともとイネーブリング・シティ構想は、2024年にイグ・ノーベル賞の「生理学賞」を受賞した横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センターの武部貴則センター長/特別教授が提唱した「幸福と健康が両立したまちづくり」という概念です。
私がこの概念に興味を持ち、武部センター長/特別教授のもとで研究員をさせてもらったことをきっかけに、今回の『イネーブリング・シティ西淀川区プロジェクト』が生まれました。
まず、イネーブリング・シティの元になるものとして“イネーブリング・ファクター”というものがあります。そもそも健康というのは、一個人が「不健康から健康になる」という事象を示していると思います。
しかしそれだけでは、現代のウェルビーイングの考え方にはそぐいません。健康になった後も生活は続いていきますし、大昔のように病になったら命に関わる状態になるのではなく、現代の生活習慣病というものは病気とも付き合って生きていくというのが当たり前の世の中になってきました。
そのような中で単に身体の健康だけではなくて、幸せになることも必要だと考えています。
横軸がヘルシー(健康)であれば、縦軸はハッピー(幸福)。この2つの要素が合わさってこそ、楽しく健康になれるのではないのでしょうか。
とはいえ、一般的な病院の考え方では、患者さんに規則正しい食事や適度な運動を促すことしかできていませんし、患者さんも頭で理解されていても、行動に移せる人は一握りの意識の高い方に限られてしまう、というのが現状です。
そこで具体例として挙げられるのが、大手ゲーム会社が作ったウォーキングのスマホゲームアプリです。
ゲーム自体は健康目的だけに作ったものでは無いと思いますが、結果的に利用者は楽しみながら歩いています。
その結果は医療の文献にも掲載されていますが、利用者の日常的な活動量は上がって、歩くことで認知症や物忘れの予防にも効果があるとされています。まさに楽しくゲームをしていた結果、健康にもなったという、これが最も分かりやすいイネーブリングな事象です。
このような事象を、私たちのプロジェクトでも数多く作り出していきたいと思っています。

千船病院理学療法士 村田尚寛氏
ーー千船病院は本プロジェクトを通じて、どのような活動をされているのでしょうか?
村田氏 はい。まず、当院は大阪府で年間出生数が一番多い病院でもあります。
その背景もあり、未受診妊婦の社会課題には問題意識を持っていました。このような妊婦さんの出産は、妊婦さんも病院もリスクがあります。
しかし妊婦さん側の視点に置き換えると、誰にも相談できなかった、出産に関する情報を知る術を知らなかったという背景もありました。そのような妊婦さんを含めた方々に受診行動を取ってもらうためには、病院がもっと身近なものになれば良いのではないかと思いました。
そこで本プロジェクトで最初に実施したのが、病院が主催するお祭りイベント「福ハッピーフェスタ」です。
2022年から年2~3回のペースで開催していて、当院の駐車場やエントランスホールなどを開放して実施しています。
開催当初から多くの企業や人々にご賛同いただいていて、大手化粧品会社が紫外線測定できるブレスレットのワークショップを開いてくれたり、ラグビーチームがラグビー体験教室を開催してくれたりもしています。
またキッチンカーも出店したりすることで、地域の方には何となく楽しそうな行事をやっているので覗いてみようという意識で来てもらう狙いです。
そこに加えて、病院も救命救急のショーを開いたり、救急車の乗車体験や体力測定会、栄養士や薬剤師への相談受付なども行ったりすることで、楽しみながら医療の知識が身について、病院を身近に感じてもらえればと思いました。
ーー本プロジェクトが始まった経緯をもう少し詳しく教えてください。
村田氏 一番のきっかけは新型コロナウィルスでした。
新型コロナウィルスの騒動があってから、人々にとって病院はあまり行きたくない場所となっていて、実際にがんの検診率などが下がっていました。
その一方で、働いているスタッフたちは大変な時期に病院に缶詰め状態で一生懸命働いてくれていて、いろいろな葛藤やストレスがあったと思います。
そのような背景があり、最初はスタッフの皆さんを労う意味でストレス解消になればと思い、新型コロナウィルス騒動が収まりだした時にキッチンカーに出店してもらいました。そうすると地域の方々も気にしてくれるようになって、少しずつ人が集まってくれたんです。
地域に根ざした病院として、もっと人々が寄り添ってくれるオープンな場所にするためにも、このような地域を活性化する活動が必要だと感じました。
また千船病院は私立病院なので、地域の人口減少は経営や存続の問題にもつながってきます。
そうならないように当院は西淀川区と連携して、区の人口を増やすような取り組みを一緒にできないかと模索していました。
例えば、近隣の福町駅付近では高架の改修工事を行っていますので、それらの場所に企業が入居したりして、地域の最開発を進めてくれるようなつながりが生まれるような仕組みができないかとも、考えていました。
そうした地域を活性化させる事業をどんどんと進めていく上でのノウハウを探していたところで知ったのが、横浜市立大学の武部センター長/特別教授の『イネーブリング・シティ』構想です。
「幸福と健康が両立したまちづくり」を、この千船病院のある西淀川区でも行っていこうと思いました。
本プロジェクトの立案は病院長と事務部長、そして私で進めさせてもらったのですが『イネーブリング・シティ』ついて深く学ぶために2022年は、私が1ヶ月のうち3週間は横浜に出向して勉強し、残りの1週間は大阪に戻って学んだことを病院に落とし込んでいくことを繰り返していました。

病院前でのイベント風景
「大阪・関西万博」、そして未来へ向かって共創を望む
ーーATCとつながるきっかけは、どのようなものでしたか?
村田氏 きっかけは「大阪・関西万博」です。
万博のテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」ということで、私たちとの構想とも一致していることもあり、万博の共創チャレンジに応募させていただきました。2024年に万博のプレイベントがATCで開催された時に、私たちのプロジェクトのプレゼンをさせていただきました。
「大阪・関西万博」にも無事に出展させていただくことが決まり、6/25に西ゲート付近のフューチャーライフビレッジに参加・出展しました。
万博では私たちが取り組んでいる『イネーブリング・シティ』を実現するために、大成建設さんと共同で使用しているまちづくりアプリの話や、東京藝術大学さんが制作して千船病院が監修させてもらっている認知機能ゲームなどについても紹介しました。
ビジネスをやるなら、この場所で
ーープロジェクトを通じて、課題に感じることはありますか?
村田氏 健康の文脈で病院が何かを実施していても、一般の人々はまだまだ付いてきにくいと感じています。
しかし、そこに企業や団体が協力してくれることで、健康の文脈を目立ちにくくしつつ、ハッピーの文脈を大きくなり、楽しんで出来ることが多くなると思います。そして、楽しんだ結果、健康にもつながる取り組みが増えていくのが理想です。
先日もウォーキングイベントを開催したのですが、単にみんなで歩こうというだけでは、なかなか人は集まりません。
しかし、西淀川区の企業と一緒に行うことで、すごい人が集まってくれました。
このようにハッピーの文脈を付けることは病院だけでは難しいことなので、企業や団体のさまざまな協力が必要です。
世の中に健康に直接関係しない企業はあるかもしれませんが、ハッピーに関係するということであれば、ほとんどの企業が対象になります。
このようなカタチで協力してくれる企業や団体は、ひとつでも多く増えていただければと思います。
ーー今後の活動に向けての想いを教えてください
村田氏 私の個人的な思いとしては、「病気でなくても行ってみたくなる病院」を目指したいと考えています。
その取組の一環として、病院内にフォトスタジオを併設しました。先程もお話しましたが千船病院は大阪で一番出生数の多い病院です。
そこにフォトスタジオがあれば、マタニティ撮影はもちろんですが、本当に出産後すぐの赤ちゃんのウェルカム撮影ができるんです。
そんな撮影をしてくれた親御さんや赤ちゃんは、2年後、3年後にも成長の記録を病院のフォトスタジオで撮影してくれるようになるかもしれません。
また、西淀川区と共同で実施したアートイベントでは、健康文脈の話は全く無しにして、「病院の駐車場に落書きをしよう!」ということで、子どもたちがいろんな絵を描けるようにチョークを置いて、落書きしてもらいました。
本当にたくさんの子たちが思い思いの絵を描いて楽しんでくれて良かったと思います。
さらに西淀川区にある公園と病院を使用してポートレート展を開催しました。西淀川区のまちの一体感を可視化するとともに笑顔の写真を展示することでハッピーを感じてもらい、公園と病院という異なった展示場所を歩いて見てまわることも狙った、幸福と健康が両立した取り組みです。
このような活動を通じて、地域の人々に病院への気持ちのハードルを下げてもらい、病気じゃなくても千船病院なら行こうかなという、意識を持ってもらえるのではないかと思っています。
私も日常業務ではリハビリテーション科の理学療法士として患者さんを担当していています。リハビリテーションはまちづくりととても関係が深いと感じています。
患者さんが幸せな生活に戻っていくのがリハビリであって、病院だけでなく地域を住みやすく楽しい場所にしていくのがまちづくりですから。そのような意味もあって、私に担当者の役割が回ってきたのかと感じていますね(笑)

チョークでいろんな絵を描く子どもたち

病院で行ったポートレート展の様子
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