人とロボットの共生社会の実現〜サービスロボットに必要な要素を解明し続ける〜
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
深層インタラクション総合研究所
京都府相楽郡精華町光台二丁目2番地2(けいはんな学研都市)
https://www.atr.jp/index.html
プロジェクトの概要
少子高齢化に伴う人手不足を解決するため「人に代わってサービスを行うロボット(サービスロボット)」の実現を目指した研究開発を行なっています。
サービスロボットの実現に不可欠なロボット設計、環境設計、社会設計などを明らかにし、その知見を次研究に活かし、必要とする人に提供します。これらの活動を通じて、ロボットが人々の日常生活に溶け込み、様々なサービスを行う「人とロボットの共生社会」の実現を目指す。
「人とロボットの共生社会」の実現に向けて、人とロボットの間にあるモノを明らかにする
今回は、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)のインタラクション科学研究所・研究員の佐竹 聡氏にお話をお伺いしました。
ーー御社や取り組み内容について教えてください。
佐竹氏 弊社は、主に脳情報科学、深層インタラクション科学、無線通信などの情報通信分野と生命科学に関する研究開発及び事業開発を行なっている研究機関になります。
そして、私が所属する部署は「深層インタラクション」について研究をしています。
あまり聞き馴染みのない言葉ですよね(笑)
インタラクションとは、人とコンピュータ、人とロボット、人と人など、この双方のやり取りを意味します。
ロボットが人々の日常生活に溶け込み、様々なサービスを行う「人とロボットの共生社会」の実現を目指す上で、「ロボット」と「人」の間にある距離やギャップの具体性を追求し、それらをどのように深めていけばこれからの社会に役立つのかについて、探る、明らかにする研究をしています。
サービスロボット(対人ロボット)には欠かせない、「注意して協力を促す能力」
ーー具体的にどのような研究をされているのでしょうか。
私のチームは現在、少子高齢化に伴う人手不足を解決するため「人に代わってサービスを行うロボット(サービスロボット)」の研究を進めています。
人に代わってサービスを行うということは、一見単純なようで、実はとても複雑です。
店員や清掃員などのサービススタッフは、商品を案内する、食器を運ぶ、床を拭くなどのメイン業務以外に、お客様がその場にふさわしくない行動をした際に、お客様に注意を促して協力を仰ぐことができます。例えば、マスク着用を義務化している店にマスクなしで来られたら、お客様にその旨を伝え、マスク着用するか入店しないかを選択してもらうという対応ができます。大声で叫んでいるお客様がいたら、周りの迷惑になるからと、注意・協力を促すこともできます。
このように、ロボットが人の代わりに仕事をするとなると、人がごく自然にやっているこれらのことを、ロボットもできなければならないのです。そして、これらはお客様に「注意して協力を促す能力」として、サービスロボットに必要不可欠な要素なのです。
しかし、一概に注意喚起、協力を促す力が必要といっても、それらは職種や環境、状況に応じて、千差万別です。
人であれば、長年の経験や勘から、環境に応じた最適なアクションが即座にとれますが、ロボットはあらかじめプログラムされていないと実行は難しい。加えて、さまざまな職種に応じて、同じいい要素と変えなければならない要素なども明らかにしていかないといけません。
こうしてサービスロボットに必要な「注意して協力を促す能力」をさらに具体化していくことが、ロボットの社会実装につながると考えています。
また、「人」がロボットを受け入れるための設計も必要です。
最近では、ショッピングモールなどの店内で、掃除ロボットを見かけるシーンも増えてきました。例えばこのロボットにマスクをしていないお客様がいたら、近づいてマスクをするよう注意喚起を促す能力を搭載したとします。技術的側面だけを見ると、目的はクリアしているように感じますが、実際お客様の視点に立ってみると、先ほどまで掃除をしていたロボットが急に近づいてきて、マスク着用について喋り出したら「実は監視されていた」「怖い」などのマイナスイメージが強く残るのではないでしょうか。下手をすると「ロボット社会=監視社会」という印象がついてしまうかもしれません。
監視社会に感じられないように、人が心地よいと感じる環境設計やタイミング設計も同時に考える必要があります。
2020年秋には、店舗で実際のお客様を対象とした店員ロボットの実証実験を行いました。
店員ロボットは、商品を探しているお客様を商品の場所まで案内するといったお客様の要望に応える「接客サービス」に加え、マスクをし忘れているお客様へロボットから注意を促し、協力をお願いする「注意喚起型のサービス」を実現しました。
こんなデータもあります。
歩きスマホをしている人に、どのようにアプローチすれば人がロボットのお願いを聞き入れるのか、という実証実験のデータです。
実験当初、約80%の人がロボットの注意を無視して、スマホを触り続けました。そこで、ロボットのセリフを謙ってお願いする言葉に変更してみました。すると、約60%の人が歩きスマホをやめました。
このように、人間心理にどう働きかけるのかというアプローチ設計も、ロボットが人間社会に溶け込む上で、とてもポイントになってきます。
ロボットがマーケットや人に受容され世の中に溶け込むためには、ロボット設計、そして、ロボットの限られた能力の中で、どう社会を組み立ていくかという社会設計論も必要不可欠な課題と考えています。
実証実験を重ねて、必要な要素を解明していく
ーープロジェクト実現に向けて、具体的に進めていることは?
佐竹氏 対人サービスを行うロボットに必要な要素、欠けているものは何なのかを探るため、仮説を立て、実際の現場で実証実験を重ねています。
2022年の夏には、ATCの実際のイベントで「行列整理を行う警備員ロボット」の実証実験を行いました。
警備員ロボットは、行列への誘導効果を図るため、イベントに来られたお客様にイベントの情報をお伝えしつつ、行例の最後尾へと誘導する「誘導サービス」を行いました。加えて、見守り効果も明らかにするため、行列への割り込みといったその場にそぐわない、ふさわしくない行為を行っているお客様にロボットから注意を促し、ご協力をお願いする「注意喚起サービス」も行いました。
実際のイベント会場において、誘導サービスと注意喚起サービスを同時に行う警備員ロボットの実証実験は、世界でも最先端の試みでした。
そして、行列への誘導を行うためには、行列に並ぶ人々の行動を正しく認識する仕組みが必要です。そこで、警備員ロボット自身に装着された3次元LiDAR※を用いて、行列に並ぶ人々の行動を認識する技術を統合し、行列整理を行う警備員ロボットを実現しました。
※LiDARは、レーザ光線を利用して物体までの距離を計測する技術です。3次元LiDARは、複数のレーザを照射して、3次元の空間情報の計測を行います。
本実証実験を通じて、この新たな警備員ロボットが社会に受け入れられるための改良を進めながら、警備員ロボットが提供できるサービスの種類を増やしていきます。将来的には、実現した技術をサービスロボット開発に携わる人たちに提供していく予定です。
ーープロジェクトの今後の予定は?大阪・関西万博とのつながりは?
まずは、本実証実験のデータ解析を行います。そこで明らかになった要素から、次に何をするかと決めます。場合によっては更なる検証が必要になるかもしれません。
万博とは、現時点で明確なつながりはありませんが、目指すところはかなり類似していると思いますので、活動していく上で、関わりが出てきたら嬉しいですね。
私たちが取り組んでいることは「基礎研究」の段階です。
これからもさまざまな実証実験を繰り返し、未来のサービスロボットに必要な基礎的な知見を明らかにしていきたいと考えています。
本日はありがとうございました。
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
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京都府相楽郡精華町光台二丁目2番地2(けいはんな学研都市)
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