100PROJECT

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“介護をする人、される人”へ癒やしを届けるロボット

ヴイストン株式会社

ヴイストン株式会社

大阪府大阪市西淀川区御幣島 2-15-28
06-4808-8701
https://www.vstone.co.jp/

プロジェクトの概要

今回は、大阪・関西万博の場外展示として ATCエイジレスセンターで2025/8/21(木)~9/5(金)に実施した『リボーンチャレンジ・ショーケース』へご参加いただいたヴイストン株式会社の鷹野裕氏(ロボット事業部 技術開発部 次長)と北﨑千佳氏(ロボット事業部 製造販売部)にインタビューさせていただきました。
ロボット開発を手がけるヴイストン株式会社が介護・福祉向けの癒やしロボット「かまって『ひろちゃん』」を開発・製造することになった経緯や、万博出展でのエピソードなどについて、お聞きしております。

ロボット技術で「避けて通れない社会課題」に挑む

ーーまずロボット開発企業であるヴイストン株式会社が介護・福祉向けのロボットを開発することになった経緯について教えてください。

鷹野氏 私たちヴイストン株式会社は、もともと大阪大学の石黒浩教授が持つセンサー技術の特許を事業化するために設立された、技術志向の強い企業です。
創業当初のセンサー技術を搭載した製品の売れ行きこそ限定的なものでしたが、その技術をロボットに応用したところ、ロボットそのものに注目が集まり、以来、二足歩行ロボットやコミュニケーションロボットなど、多岐にわたるロボット開発をメイン事業としてきています。
そんな当社が介護・福祉という領域に足を踏み入れたのは「技術的にもビジネス的にも困難性が高いが、社会課題として避けては通れない」という強い問題意識からです。
日本は急速に高齢化が進行し、介護の現場では「認知症の方との関わり」や「介護スタッフの心身にわたる負担」が課題になっています。
特に、行動・心理症状を伴う方への対応など、介護現場で求められるケアの難しさは我々の想像以上のものがあります。
加えて、慢性的な人手不足や、高額な介護機器は導入のハードルが高いという課題もあります。こうした状況に対し、ロボット開発企業である私たちヴイストン株式会社は、独自の視点でアプローチを開始しました。
介護の現場では多くの方がさまざまな困りごとを抱えています。そこへロボット技術で貢献できないかという思いは、常に持っていました。ただ、なんでもお手伝いする万能な大型ロボットはまだまだ現実的ではありません。そこで我々は、身体的なサポートではなく、メンタル面にアプローチするという発想で開発を始めたんです。技術力で正面から挑むのではなく、他の誰も手をつけていない「隙間」を見つけ、解決策を探る。それがヴイストンのスタイルであり、かまって「ひろちゃん」が生まれる土壌になったと言えます。

ーー大阪・関西万博に出展した、かまって「ひろちゃん」は、どのような経緯で誕生しましたか? また、どのような特徴を持つロボットですか?

北﨑氏 介護・福祉分野でロボット事業を進めるうえで、「介護の現場を笑顔にしたい」という想いがあり、施設の方々へたくさんのヒアリングを行いました。
その中で介護スタッフさんから「5分だけでもいいので、時間を作ってくれる、操作が簡単なものがあると助かります」という声があったんです。
介護現場からの切実なご要望ということだと理解しましたが、それが「ひろちゃん」開発のヒントの1つになりました。
「ひろちゃん」の機能は非常にシンプルです。ぬいぐるみ素材で出来ていて、内部には加速度センサーとスピーカーが搭載されています。
利用者さんが「抱っこ」や「たかいたかい」などのお世話をすると、その揺れを感知して、本物の赤ちゃんから録音した100種類以上の笑い声を上げて喜びます。ちなみに、改良を重ね、現在の最新モデル「かまって『ひろちゃん』にこにこVer.」では、機嫌が悪くなることはありません。

鷹野氏 この“機嫌が悪くなる”ということにも、少しエピソードがあります。
当初のモデルでは、実際の赤ちゃんに似せるという目的で、放置すると「泣く」機能も付けていました。泣いて注意を引き、本能的にあやす、お世話するのを促すという狙いです。
しかし、利用者さんの状態によっては、赤ちゃんが泣くことで、どのように対処するべきかわからずに戸惑ってしまう方もいらっしゃいます。
さらに、複数の「ひろちゃん」をご利用いただいている施設においては、どの「ひろちゃん」が泣いているのかわからない、というご指摘もいただきました。
そのような経緯から、現在のにこにこバージョンでは、機嫌のステータスが普通よりも下がらない設定としています。

開発スタートから販売までには、約3年を費やしましたが、さまざまなトライアンドエラーを繰り返しています。特に、私たちはロボット屋なので、すぐに高機能な製品を求めがちです(笑)。当初は手足が動いたり、通信してログが取れたり…という風に考えていたのですが、開発を進めていくうちに「ひろちゃん」には、そのような機能は必要ないと思い始めました。

そんな試行錯誤の中で生まれた最たる例が、「顔がない」という特徴です。開発中、石黒先生から『最小限の要素でどこまで使えるかを検証するなら、「顔が必要かどうか」も含めて検討した方がいいのではないか』という問いかけがあったんです。そこで顔のない試作品で実験したところ、顔があってもなくても、利用者の満足度やモチベーションに差はないという結果が出ました。それならば、利用者が自由に想像できる余地を残そうと、あえて「顔のない」製品としました。ただ、「顔がなくて怖い」というご意見もありますので、顔のカバーも別途製品化しました。また、お客様自身がオリジナルで顔をデザインすることもできるため、より愛着をもって使っていだだけるものとなっています。

笑顔の連鎖を生み出す、癒やしのロボット

ーーかまって「ひろちゃん」を利用することで、どのような効果が期待されますか?

北﨑氏 まず、利用者の方が「ひろちゃん」をあやすことで笑い声が発せられ、利用者さん自身も自然と微笑んだり柔らかい表情になられたりします。
さらに赤ちゃんの笑い声は周辺にも良い影響を与えてくれるので、忙しく働いている職員さんや介護スタッフの皆さんにも癒やしのひとときをお届けできます。また「ひろちゃん」をきっかけに、利用者さんと職員さん、利用者さん同士の交流が生まれることも最新の研究で分かってきました。「ひろちゃん」の笑い声によって、施設全体の雰囲気を和らげて、『笑顔の連鎖』が生まれることが理想です。

鷹野氏 本物の赤ちゃんの場合は、抱っこして揺らすだけですぐに笑ってくれる訳ではありませんが、「ひろちゃん」はそこをシンプルにしてロボット化したものです。
利用者の方がお世話をするという行為をすれば、笑い声というポジティブな反応をすぐに返すようになっています。自分の働きかけに対して、好意的なフィードバックが得られるということが、利用者さんにとって、楽しさを感じてもらえる良い部分ではないかと思っています。

ーー現在はどのような形で利用されていますか?

北﨑氏 製品としては2019年12月から販売を開始しました。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大が急速に進行しました。しかし、そんな大変な時期にもかかわらず、介護施設様に多大なるご協力をいただき、実証実験の実施と、それに基づく製品のバージョンアップを重ねることができました。当時ご協力いただいた施設様には、感謝の気持ちでいっぱいです。
2024年秋頃から6か月間の無償レンタルサービスを開始し、全国各地で約100施設に利用してもらい、「入居者様の笑顔や会話が増えた」「ご利用者様に落ち着きが出た」「スタッフの負担軽減になった」という声もいただいております。その中のいくつかの施設様には有償にてサービスを継続利用していただいております。

ーー大阪・関西万博に出展した際は、どのような反応でしたか?

北﨑氏 大阪・関西万博には出展場所や時期を変えて、何度か出展させていただきました。
そのうちの1回は、大阪ヘルスケアパビリオンのリボーンチャレンジブースにて、6/17(火)〜6/23(月)の1週間で、本当に多くの方々にご来場いただき、実際に「ひろちゃん」を抱っこしていただきました。
賑わいすぎて体験人数は、ちょっとカウント不可能でした(笑)

リボーンチャレンジでは、一般の方々にご応募いただいた「ひろちゃん」のデザインコンテストの入賞作品を展示したこともあり、作者の方々も来場して非常に喜んでくださったのが印象的です。
また、「ひろちゃん」の出展を知って、わざわざ万博に来場してくれたファンの方もいらっしゃって、本当に嬉しかったですね。
その後、7月29日(火)~7月30日(水)の期間にEXPOメッセ(WASSE)内に展示させてもらった時にも、前回の出展を覚えてくれた方が来場して、「また会いに来ました!」と言ってくれたのも、印象に残っています。

鷹野氏 万博に出展して、改めて感じたのは「笑い声には力がある」ということですね。
万博来場者は、いろいろな経験に対して貪欲な人が多かったと思いますが、私たちのブースに来るまでにも長時間並んだり待ったりして、疲れている方も多かったはずです。ただ、そんな中でも「ひろちゃん」を渡して、『揺らしてください、笑いますよ』とお伝えして、「ひろちゃん」が笑うと皆さん笑顔になってくれました。私たちとしては、その反応がまさに「してやったり」という感じで、とても大きな力になりました。それに、大阪という土地柄のためか、リアクションのよい来場者も非常に多かったです。顔がないことも「なにこれ、おもろいわ~」とイジりながら抱っこしてくれたりして、このような利用者さんのリアクションがあってこそ、「ひろちゃん」の価値が最大限高まるのだと改めて感じました。

ーー現在、ATCエイジレスセンターにもご出展いただいていますね?

北﨑氏・鷹野氏 はい、ATCさんとのつながりは結構前からです。
大阪市さんとの関係で言うと、弊社が産学連携の共同開発グループ「Team OSAKA」のメンバーとして、ロボカップ世界大会に参加していた頃からになると思います。2005年の「ロボカップ2005 大阪世界大会」では、弊社で開発したロボットが世界大会2連覇を飾ったこともあり、その頃から、大阪のロボット開発企業として、様々な展示やイベントにお声がけをいただいていました。毎年開催されているATCロボットストリートなどのイベントにも複数回出展させていただいております。
2024年からは、ATCエイジレスセンターに「ひろちゃん」も常設展示させていただいており、介護や福祉関係の皆さんにも手にとって試していただける場所となっています。

ーー今後、かまって「ひろちゃん」をどのように成長させていくイメージでしょうか?

北﨑氏 まず製品としては、今後も実証実験を重ねていき、現場の声を反映しながらバージョンアップを行っていきたいと思っています。
現状は介護施設を中心に利用していただいていますが、在宅介護などの場面においても困っている介護者さんもいらっしゃいますので、今後はそのような方々にも知っていただく活動にも力を入れていきます。
海外の研究者にも使っていただいており、その研究成果は論文としても発表されています。赤ちゃんの笑い声は非言語な情動反応であり、言語や文化を越えた、人類に普遍的な安らぎをもたらすものであると考えています。日本国内のみならず海外においても、老若男女に愛用いただける製品に育てていきたいです。

鷹野氏 かまって「ひろちゃん」は、一般のお客様への販売も開始していますが、私たちの実感としてはまだまだ完成していないサービスだと思っています。
製品自体の機能もですが、どのような人に最も効果的なのかや、よりよい運用方法などを改良を重ねながら探っている状態なんです。

今後、現場の声を反映して改良を加えることで、「ひろちゃん」という形にとらわれない製品に成長する場合もあると思っています。
私たちヴイストンは、かまって「ひろちゃん」の開発を通じて、社会問題の解決のために貢献していきます。

ヴイストン株式会社

大阪府大阪市西淀川区御幣島 2-15-28
06-4808-8701
https://www.vstone.co.jp/

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